日常の発見

お通しは謎システムやない。頼んでない一品の正体を考えてみた

居酒屋で席に着くと、頼んでいない小鉢が出てくる。そして会計には、ちゃっかりその分が乗っている。お通しである。

先日、一緒に飲んでいた後輩に「お通しって何なんすかね。頼んでないのに」と聞かれて、うまく答えられなかった。悔しいので、居酒屋歴の長い僕が真面目に考察してみた。結論、お通しはかなりよくできたシステムだった。

冷静に考えると謎の商習慣

まず謎を整理する。お通しは、注文していないのに提供され、拒否の選択肢が実質なく、数百円が課金される。海外から来た人が「頼んでないものにお金を払うの?」と混乱するのも有名な話だ。

普通の商取引の感覚では、たしかにおかしい。でも日本中の居酒屋で何十年も続いているということは、この仕組みが店と客の両方にとって、何かしら機能しているはずである。機能のない仕組みは、市場ではとっくに淘汰されているからだ。

そこで、お通しが果たしている役割を分解してみた。

正体1: 角の立たない席料

一つ目の顔は、席料の言い換えだ。居酒屋は客が長居する商売で、席そのものにコストがかかる。でも「席料500円」と書くと、日本の客はたぶん強い抵抗を感じる。

そこで、席料を小鉢に変換する。同じ500円でも「モノが付いてくる」と、支払いの納得感がまるで違う。取りたいものを、受け取りやすい形に変えて渡す。これは課金設計の工夫として、なかなかの発明やと思う。

正体2: 待ち時間ゼロのUX

二つ目の顔は、体験設計だ。お通しは注文前に出てくる、つまり「席に着いた瞬間に食べ物がある」状態を作る。

飲み会の立ち上がりで一番間が持たないのは、注文してから最初の料理が届くまでの時間だ。お通しはその空白を埋めて、ビールと小鉢で会をスタートさせてくれる。幹事術の記事で「乾杯までを最短に」と書いたけど、お通しは店側が用意してくれている時短装置なのだ。

身の回りの仕組みを設計の目で見ると面白いという話は街のUI観察の記事に書いたが、お通しはまさに飲食店のUIである。

正体3: 店の名刺

三つ目の顔は、店からの自己紹介だ。お通しは、店が客の好みを聞かずに出す唯一の一品である。つまり、店のセンスがそのまま出る。

僕の経験則で言うと、お通しがうまい店は、その後の料理も外さない。いま行きつけにしている店の一つは、初訪問のときのお通しの小さな煮物に感動して通い始めた店だ。逆に、明らかに手を抜いた業務用のお通しが出てくると、ちょっと警戒する。

数百円で店の実力を測れると考えれば、お通しは「試食に金を払っている」のではなく「鑑定料を払っている」のに近い。

とはいえ改善の余地はある

お通し擁護に回ってきたが、公平のために弱点も書いておく。最大の問題は、説明のなさだ。

金額が事前に分からない、断れるのか分からない、そもそも有料と知らない人もいる。仕組みは優秀でも、案内が不親切なのだ。最近は「お通し代◯円いただきます」と明記する店や、選べるお通しの店も増えていて、あれは正しい進化やと思う。

良い仕組みほど、説明を尽くすべきである。これはシステム開発でも居酒屋でも同じだ。

まとめ

要点は3つ。

  • お通しは「角の立たない席料」「待ち時間ゼロの時短装置」「店の名刺」の3役をこなす仕組み
  • お通しがうまい店は外さない。数百円の鑑定料と考えると安い
  • 弱点は説明不足。金額明記や選択制は正しい進化

次の飲み会でお通しが出てきたら、ちょっとだけ品定めしてみてほしい。その小鉢、店からの名刺やで。

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